第2条第2項 短答刑法穴埋め問題その2

ああ、時間切れ…

「答えは?」

ねーちゃん、般若みたな顔している。

答えが出てないなんてとてもいえない…

「3か4か5……」

「それじゃ、受かんないでしょ!!」

ちょー、こわ。ドSだな。ドS式合格講座だよ。

「意地でも解答ださなきゃ話になんないでしょ」

「そりゃ、そうだけど、会話も少しややこしいし。問題文の量も多めだから無理だよ」

「あんたね、言い訳はやることちゃんとやった後に言いなさいよ。あんたの解答プロセスには無駄があった」

ん?どういうこと?

「まず、あんたは、会話文の①と②のところを読んだ後、【発言】の確認にいったよね」

「うん、そうだよ」

「前もって1から5の候補の確認はした?」

「あ、それはしてない」

「1から5までを見れば、①と②には、それぞれアかイのどちらかしか入らないことが分かるでしょ。あんた、①と②の辺りを読んだ後、【発言】全体を何となく見てたけどその行動に意味ないから。①や②にウ以下は入らないんだから、アとイだけを確認するべきだった」

グサッと来た。確かに、頭の中が整理されていないから、目が泳いで無駄なところを読んで、時間のロスが起こっていたかも。

「それで、①にイ、②にアが入るのは、その通りなんだけど、3、4、5を見ると、③の候補がそれぞれオ、カ、キになってるね。だから、本問を正解できるかどうかは、③の判断にかかってる」

確かに。ねーちゃんは続ける。

「実は、会話問題でも、判例知識に関する空欄を埋めることで解答の選択肢が一気に絞れることがあるんだよ。だから、会話問題でも、発言者のセリフの中に「判例は」とか「判例からは」みたいなワードがないか探すといいよ。解答も、会話の全部をじっくり読まなくても、空欄の前後を見ていくだけで出ることがほとんどだし、逆にそれで解答がでないんだったら、あんたにその空欄は埋められないから。とにかく、その空欄は、翻れば出題者が絶対に解答してほしいと考えていたポイントといえるし、復習の際にも、真っ先に頭にいれないといけない知識なんだよ。本問なら、①から③を入れれば正解に辿り着けたよね。だから、④と⑤には比重がないんだけど、普段の勉強の時に、①から③と同じテンションで④と⑤も押さえようとしていたら大変でしょうがない。あんたは、もともと脳の容量が1メガバイトなんだから」

最後の一言は余計だけど、大事なことをいわれているような気がしたのでスルーした。

「じゃあ、空欄は、全部埋める必要はないの?」

「その質問をすること自体バカの証拠。まず、全部の空欄を埋めないといけない問題かどうかを自分で判断する。そして、埋めないでいいのであれば、次に、どこの空欄を埋めれば良いのかを判断するってこと。その目安となるのが判例知識ね。もちろん、判例よりも条文が大切だから条文そのままの知識で埋められる空欄があればそこを先に固めたいけどね。」

「それは解くときの話?」

「そう。本番とかで解くときはそうして行く。で、普段の勉強の時でも解くときはそうするんだけど、復習時の知識の補充の際にも正答に至る正しい道筋を確認してこれを基準に、必須の知識とオマケの知識を意識的に区別しながら記憶していくのよ」

「ある問題ではオマケの知識だったけどある問題では必須の知識になることもあるんじゃないの?一つの問題でそうやって決めつけるのは危険じゃないの?」

「決めつけるわけじゃなくて、この問題では、ここが急所だったんだなっていうのを意識するの。ただ、漫然と全体にローラーをかけるんじゃなくて、何が大切だったかを意識・判断するの。そのこと自体が合格するための頭の使い方として大切なのよ。それに、けっこう、ある問題の必須の知識は他の問題でも必須の知識として扱われてるよ」

「でも、そんな難しいこと考えなくても、短パフェを回せばうかるんじゃないの?」

「タンパフェ?牛タンのパフェ?を回すの?」

「短パフェだよ!辰巳(辰巳法律研究所)の短答過去問パーフェクトだよ、過去問集、バイブルでしょ」

「ああ、今、短パフェっていうんだ!私の頃はそんな呼び方してなかったような……。うん、回す回す。でもさ、この試験は、特に論文がそうだけど、用意された事実と自分がもっている知識を使って『判断』することが求められるものなんだよ。それが無意識にでも分かった上でバンバン回すのなら良いんだけど、判断するという主体性を忘れて知識を仕入れるのは、短答の合格には近づいても、論文の合格にはそんなに近づいていないというか、むしろ遠ざかっている気がするね。私は、こんな感じでやってたよ」

ふーん、ねーちゃんも一応いろんなこと考えて受験してたんだな。

「それで、本問の解答はどうなるんだっけ?」

「あんたの解き方があまりにお粗末だったから脱線しちゃった。判例は、『カ.刑法第65条第1項により甲及び乙は業務上横領罪の共犯となり、同条第2項により乙に対しては単純横領罪の刑を科す』ね。これは、覚えてないと無理ね。というのは、判例や通説が採る、65条1項は占有者等の構成的身分に関する規定で非身分者との連帯を定め、他方、65条2項は業務者かどうか等の加減的身分に関する規定で非身分者と連帯しないこと(個別)を定めている、っていう前提からだと、「キ.刑法第65条第1項により甲及び乙は単純横領罪の共犯となり、更に同条第2項により甲については業務上横領罪が成立する」といった方向に結論がいくはずだから。ところが、判例は、業務上横領罪の処理に際しては、『業務上の占有者』というひとカタマリの構成的身分として65条1項を適用しているの。確かに、本問では、後ろに「非身分者について罪名と科刑の分離を認めるのは妥当でないという批判がなされています。」というのがあるから、これを根拠にカを選ぶこともできるけど、これ自体が判例に対する重要な批判ということで空欄にされる可能性があるからね」

「④と⑤は?」

「マイナーな話になってくるから、がっつり押さえるのは試験対策上は非効率だけど検討すると、まず、【発言】候補のウ自体に違和感を覚えるわ。業務者たる身分が違法身分か責任身分かは争いがあるけれど、占有者たる身分が個別判断に傾く責任身分というのはおかしいかなって。そして、仮に④にウが入ったとしても、占有者たる身分が2項で個別ならば、乙には単純横領罪自体成立しないことになるけど、オからキ全てで、乙には単純横領罪か業務上横領罪が成立しているでしょ。だから、ウはないかな。で、エがあり得る普通の見解であるんだけど、1項で違法身分=占有者→連帯、2項で責任身分=業務者→個別とすると、『キ.刑法第65条第1項により甲及び乙は単純横領罪の共犯となり、更に同条第2項により甲については業務上横領罪が成立する』が入るよね」

なるほど。

「解答方法を捕捉すると、本問では、事例を把握して、判例というワード見付けて、③にカを入れる。そうすると、解答は、一気に1か4の2択なってる。そこから、①②又は④⑤で自分が埋めやすいと感じた方を埋めれば速く答えがでるかな」

「逆に、③で迷うと抜け出せないんだね。確かに、論理的にはキが入りそうだもんね」

判例がちょっと変わったこといってることを意識して欲しいっていうのが出題意図かもね。ちなみに予備校の答練や模試だと、本試験の短答問題と違って、こういう教育的配慮・志向が行き届いてないから、正解できるかどうかの判断に係る知識に意図はなくて、単に細かいだけのいじわるな知識の場合があるよ。だから、本試験のように解答プロセスを分析する必要もないし、むしろ調子崩さないように気を付けないとだね」

なるほどねー

「あ、でも、ねーちゃん、短答1問でこんなに解説してたら、すぐ飽きられるよ。もっと、コンパクトにパンパンいかないと」

「それは、あんたのレベルが低すぎたからでしょ」

「でも、そこを上手くやるのが講師でしょ」

「教えてもらう側が文句ばっかいって!受験生はレストランの客じゃなんだよ」

「でも、講師もサービス業だから」

「たく、文句ばっかりいってる受験生が合格後にどんな法律家になるのか楽しみだわ。あ、ほとんどは受からないか」

「ねーちゃん!」

ふと、ねーちゃんが真面目な顔をしてこちらに向き直った。

「私にバカにされて悔しかったら、あんたも、絶対に受かりなさいよ!」

そうだった。受験生である以上、合格以外に僕が楽になる方法はないんだった。

僕が密かに決意を新たにしていると、ねーちゃんがニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んできた。

「ねえ、今回、私、アメとムチ、うまく使い分けてたよね?」

いや、ムチと竹刀を交互に使ってただけだよ。