第2条第1項 短答刑法穴埋め問題その1
「さ、やるよ」
次の休日、リビングの机に六法を用意して、若干緊張して待っていると、伊達眼鏡をかけてスーツを着た、いかにも女教師といった感じの生き物が颯爽と現れた。
「……ねーちゃんさ、ほんと何でそういうノリになっちゃうかな……」
「普段しみったれた生活している受験生にはこれくらいの方がウケがいいんじゃないの」
サービス精神は旺盛なんだな。でもちょっと古いんじゃ。
「とりあえず、短答やろうか。あんた、短答さえ受かってないクズだから」
「いや、だからそれ!」
「ああ!短答に合格なさっていない遠慮深い方?でいい」
遠慮じゃなくて受かりたくても受かれないんだよ……
「じゃあ、私が選んだ短答過去問をまずは一緒に解いていこうか。解き方や知識確認、あと、ゆくゆくはその知識が論文にも使えるようにまとめられればいいかなって思って」
「そうそう!すごくいいよ。なんか講師っぽい!」
「ほんと!?」
ねーちゃん、めちゃくちゃ嬉しそうだ。
「あんたは、どの科目からやりたい?」
「とりあえず、練習だから、ねーちゃんの得意な科目でいいんじゃないの?」
「予備の短答は法律科目だけで190点近くあったから、特に得意不得意がないんだよねー、うーん、どうしよう」
え、法律科目平均9割くらい取れてたってこと?普通に怪物じゃん。
「まあ、じゃあ、手始めに刑法やろっか。じゃあ、記念すべき第1問目ね!2分で解いて」
そういって、ねーちゃんはA4用紙を一枚机の上においた。
<司法・刑事・H23-16=予備・刑法・H23-5>
業務上の占有者による横領行為に非占有者が加功した場合の罪責について、教授及び学生が次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑤までの( )内に後記アからキまでの【発言】から適切な語句を入れた場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちのどれか。
【会 話】
教授.保険会社の保険料集金担当従業員である甲が、同社の従業員ではない知人乙と共謀の上、集金した保険料を横領した事例のように、業務上の占有者に非占有者が加功した場合のそれぞれの罪責について、共犯と身分の観点から、どのようなことが問題になりますか。
学生.業務上横領罪の成否に関して、同罪は、単純横領罪との関係では(①)であり、他方、非占有者との関係では(②)となりますから、特に乙に対して、何罪が成立するのかが問題になります。
教授.判例ではこの事例はどのような結論になりますか。
学生.判例は、(③)としています。
教授.判例の立場に対しては、どのような批判がなされていますか。
学生.非身分者について罪名と科刑の分離を認めるのは妥当でないという批判がなされています。
教授.この点を克服するための考え方としては、どのようなものがありますか。
学生.刑法第65条第1項は違法身分について規定し、同条第2項は責任身分について規定していると考え、業務上横領罪については、(④)と捉えた上で、この事例では(⑤)とする見解などがあります。
【発 言】
ア.占有の受託者という身分があることによって犯罪行為になる構成的身分犯
イ.業務者という身分があることによって刑が加重・減軽される加減的身分犯
ウ.占有の受託者たる身分は責任身分、業務者たる身分は違法身分
エ.占有の受託者たる身分は違法身分、業務者たる身分は責任身分
オ.刑法第65条第1項により甲には業務上横領罪が、同条第2項により乙には単純横領罪がそれぞれ成立し、甲及び乙は単純横領罪の範囲で共犯となる
カ.刑法第65条第1項により甲及び乙は業務上横領罪の共犯となり、同条第2項により乙に対しては単純横領罪の刑を科す
キ.刑法第65条第1項により甲及び乙は単純横領罪の共犯となり、更に同条第2項により甲については業務上横領罪が成立する
1.①ア ②イ ③カ ④ウ ⑤オ
2.①ア ②イ ③キ ④ウ ⑤オ
3.①イ ②ア ③オ ④エ ⑤カ
4.①イ ②ア ③カ ④エ ⑤キ
5.①イ ②ア ③キ ④ウ ⑤カ
「え、2分?!」
僕は急いで問題文を読もうとした。けれど、焦って、なかなか内容が頭に入ってこない。
ようやく、共犯と身分の問題ということに気付いても、同時に、自分が共犯と身分の論点が苦手だったことに気付いて絶望的な気持ちになった。
いや、でも、まだ時間はある。
そういえば、前回の予備試験のために過去問1周したときにやったはず。ええと、①は業務上横領罪と単純横領罪の関係で、②は非占有者との関係だから……①が刑の重い軽いの身分のはなしで、②が犯罪になるかどうかの身分のはなしだよね。だから、【発言】を見ると、ええっと、ああ、一番上に「ア.占有の受託者という身分があることによって犯罪行為になる構成的身分犯」ってある。これが②に入って、「イ.業務者という身分があることによって刑が加重・減軽される加減的身分犯」が①に入るのかな。
お、3と4と5がそうなってる!
でも、急がないと!「教授.判例ではこの事例はどのような結論になりますか。学生.判例は、(③)としています。」か。【発言】をみよう。「ウ.占有の受託者たる身分は責任身分、業務者たる身分は違法身分」。
?なんか、日本語として入らないかな。次、エも同じだね。そうすると、オ、カ、キのどれかか。なんか似てるなあ。うう、判例どれだっけ。
「はい!2分!!おしまい!」
――――――― ねーちゃんから非常な声が発せられた